至日までご無事で… (安闔日的に)

小説『十二国記』シリーズをご存知でしょうか?
小野不由美著の古代中国思想を基盤にした異世界ファンタジー作品です。
まだまだ未完ながらなかなか新作が発表されません。

先月2月27日発売のyom yomという雑誌でようやく約6年半ぶりに短編の
「丕緒(ひしょ)の鳥」が発表されたので耳にされた方も多いと思います。
本日はせっかく春分の日なのでシリーズの一『図南の翼』について。


ファンタジーという枠で十二国という世界のシステムがあります。
王というものは為政者であるのですが、普通の民草から”見えざりし者”
である天帝に選ばれる神の存在であり、神が為政者としての責務を果たさ
なければそれぞれの国に天変地異が起こり、大地が荒れ、平和などはあり
えず、自らも斃れるというものです。

”見えざりし者”に選ばれる − 作中では「天意」と表記されているの
ですが、それぞれの国にはそれぞれ聖獣である”麒麟”が生まれ、その麒麟
王を何らかの力で選択する、というのですがそのあたりが物語のある意味核心
であるようで、分かったような分からないような神秘の部分です。
シリーズのテーマでもあります。

ただその麒麟に選ばれめぐり合うには、麒麟が探し出す場合もありますが
この『図南の翼』のように麒麟に会いに行き王として選出してもらう方法も
あります。それを昇山と言います。

十二の国の一、恭国のわずか13歳の少女が王の不在により国が荒れ崩壊
している様を憂いて可能性があるのであれば自分が立つという強固な意志の
元に麒麟がいる蓬山をめざしました。
通常、王をめざして蓬山に上ることを「昇山」といいますが、蓬山は恭国
やその飛地である令乾門より南に存在するので「図南」とも言います。


自分の無力を知りつつもそれをなんとかしようという気持ちがある限り
絶望ではなくいつかは力になると思います。
シリーズ他の物語でも語られる”義務と権利”は自分が精一杯やった後に
堂々といえる言葉であるのだと読むたびに反省しぱなしでございます。
自分もこんな風に堂々と生きて行きたいと憧れずにはいられないのです。



「昇山」「図南」というこの世界の構造を全く説明口調のみで語ることなく
少女珠晶の物語として楽しめるこの話は十二国記シリーズの中でもファンが
多い清々しくも剛毅な冒険譚であります。
是非シリーズ全部を読んでいただきたいところですが、全部読みきれない方、
シリーズ読みはじめで世界観がつかめない方はまずは一冊で一話完結のこの
『図南の翼』を先ずは読まれるのがオススメです。



※「至日までご無事で…」というのは麒麟が王では無いと判断する昇山者に
 対して発するねぎらいというかお断りのお言葉です。
 これは麒麟にとっても昇山者にとっても非常に残念なことであるのは
 言うまでもありません。詳しくはやはり作品を読んでもらうのが一番♪

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